カスタム電源開発・設計 豆知識
2025.02.24
カスタム電源とは?開発・設計のポイントをご紹介
皆様は、カスタム電源について、詳しくご存知ですか。当記事ではカスタム電源の概要とカスタム電源の開発・設計にまつわる情報について詳しく解説します。是非最後までご覧ください。
カスタム電源とは?
カスタム電源とは、要望に沿って開発した特注電源です。カスタム電源は、オーダーメイドの電源であるため、多品種少量生産となり、開発コストがかかり、高価になる傾向があります。しかしながら、カスタム電源を活用することで、求められるサイズや形状、寿命、電気的特性、その他スペックの実現が可能です。
カスタム電源とセミカスタム電源・標準電源の違い
標準電源
標準電源とは、電源メーカーにより既製品ラインナップとして製造がされている電源を指します、一般的市場動向に見合った仕様、環境・パッケージ・価格等が決定された電源から、顧客が用途に近い電源を選択します。この為、決められた電源の中からしか選定できず、顧客の要求に全て対応することができません。
セミカスタム電源
セミカスタム電源とは、標準電源に対し、周辺回路等を追加するなどして、仕様や特性を変更した電源のことを指します。カスタム電源ほどとはいきませんが、求められる機能を付加することが可能です。
>>セミカスタム電源の活用により、コストダウン・開発期間短縮を実現
カスタム電源の開発・設計における重点項目
カスタム電源を開発・設計するに際しては様々な要求スペックが存在しますが、これらをすべて優先し採用してしまうと莫大な回路規模となり、コストはもちろんスペース的にもオーバーしてしまいます。そこでカスタム電源を開発・設計する際にまず押さえておくべき項目を下記に列挙します。
カスタム電源を開発・設計する際の必須項目
(1)価格
(2)パッケージ
(3)入出力の仕様
電源として必須の項目を押さえた後、求められるスペックに応じて下記のうちどれが必要なのかを決定します。必要に応じて数値の見直しや取捨選択することが求められます。
カスタム電源を開発・設計する際の選択項目
(1)寿命
(2)使用環境
(3)力率、効率
(4)安全規格
(5)EMC対応
(6)絶縁耐圧
(7)外部信号
(8)保護機能 保護回路
(9)顧客の特殊仕様
(10)その他ご要求事項
スイッチング回路の構成
スイッチング回路とは、スイッチング素子(MOSFET・IGBT・パワートランジスタ等)を高速でON/OFF(スイッチ)させ、電力変換効率を高め無駄な電力消費を無くす回路となります。
スイッチング回路の構成
スイッチング回路の種類
スイッチング方式には様々な種類があり、方式によってメリット・デメリットがあります。
主なスイッチング方式は以下があります。
①チョッパ方式
②フライバックコンバータ方式
③フォワードコンバータ方式
④アクティブクランプ方式
⑤プッシュプル方式
⑥ハーフブリッジ方式
⑦フルブリッジ方式
メリット・デメリットについて、下記コラムにて詳しく解説していますので、ご確認ください。
スイッチング方式の選定方法
スイッチング方式を選定する上で重要となってくる項目は下記になります。どういった事に着目すべきか、簡単な解説と共に列挙いたします。
(1)価格
言わずもがな価格はとても重要な要素ですので、価格に見合った回路構成が必要となります。
(2)効率
要求される効率を達成するように設計することに加え、電源への入力仕様とスイッチング電源からの発熱による周囲への影響性を考慮してスイッチング方式を選定します。
(3)力率
顧客の入力電流ピーク値を満足出来るかで仕様が決定します。
(4)パッケージ
パッケージを決定する際には、内部の開口面積が確保出来るか、パワー半導体を放熱器で冷却可能な面積が確保出来るかを考慮する必要があります。
(5)使用環境
電源によっては過酷な使用環境での安定稼働が要求される事もあり、スイッチング電源としてはそのような環境でも部品定格及び使用低減率を考慮し選定する必要があります。
このように、スイッチング回路方式は上記の(1)~(5)の条件を満足させる回路構成が必要です。以降では、実例を挙げながらスイッチング回路方式の選定プロセスについて解説して参ります。続きは下記リンクよりご確認ください。
スイッチング素子の選定方法
スイッチング電源の元となるスイッチング素子にはパワートランジスタ・MOS FET・IGBT等があり、それぞれに特徴があるため、仕様に合せて選定する必要があります。
まず、各々のスイッチング素子の特徴としては、下記が挙げられます。
一般的に500Wクラス以下の電源では、MOS FETが主流で使用されています。そこで今回は、MOS FETの選定方法や設計上で注意すべき注意ポイントについて、下記に示します。
MOSFET選定時の注意ポイント
選定にあたっては、部品の仕様を満足し、且つ決められた項目に対して部品余裕度を満足することは絶対条件ですので、まずは主要な仕様項目について検討していきます。
その他、設計時の注意事項やメーカーカタログの各項目に対する留意点もあります。続きは下記リンクよりご確認ください。
また、電解コンデンサやヒートシンクの選定に関する情報も掲載しています。是非ご確認ください。
スイッチング電源における効率の最適化
スイッチング電源において効率とは、入力電力に対する出力電力の割合を言い、効率は高い程スイッチング電源内部での発熱が少ないことを指します(パッケージの小型化が可能)。逆に効率が低いと、ヒートシンクの大型化や素子の並列使い等が必要となるため、コストアップに繋がります。損失を減らし、効率を良くする為には以下の様な方法が考えられます。
①スイッチング素子にMOSFETを使用する
従来のトランジスタを使用する場合では、VCEの電圧が大きく大電流ではVCE×電流で大きな損失となっていました。対してMOSFETではON抵抗が極めて小さい(数mΩ~数Ω)ことから、電流2×ON抵抗による損失を非常に小さくすることが出来ます。
②力率改善(アクティブフィルタ)回路を搭載する
力率を上げることにより、入力皮相電力を上げ、力率効率を改善することが可能です。力率改善回路の詳細については、下記記事にて詳しくご紹介しています。
③ゼロスイッチング方式を使用する
MOSFETでは、VDSと電流の重なりが損失になってしまいます。そこでゼロスイッチング方式を使用することで、重なりを少なくすることが出来、結果として損失を大幅に低減することが出来ます。(※ゼロスイッチング方式については、別記事にて詳細を解説予定です。)
その他、効率の最適化に関するポイントが気になった方は下記リンクよりご覧ください。
スイッチングノイズ対策の基本
電源におけるスイッチングノイズは、多かれ少なかれ、必ず発生するものです。基本的にはスイッチング周波数が高ければ高いほどノイズが出やすく、低いほどノイズは小さくなる傾向にあります。ただし、スイッチング電源としての機能を満たすためには、電源効率など保った上で、伝導ノイズの規格(VCCIクラスA、IEC62236-3-2)内に収めるよう設計することが求められます。
スイッチングノイズを低減する方法には様々な方法が存在しますが、ここではノイズが問題になる前にあらかじめ押さえておいて頂きたい対策をご紹介致します。
①ゲート抵抗の抵抗値を最適化する
スイッチングノイズを低減させるためには、オーバーシュート・アンダーシュートを小さくすることが効果的です。ゲート抵抗を最適化することにより、オーバーシュート・アンダーシュートを抑えられます。ただし抵抗値が大きければオーバーシュート・アンダーシュートへの効果も大きくなりますが、その分、損失が大きくなります。
②ゲート抵抗の位置を、FETの直近に配置する
ゲート抵抗は抵抗値だけを最適化すればいいだけでなく、MOSFETの直近に配置する必要があります。なぜなら、パターンのL成分がノイズとして乗ってしまい、異常発振する場合があるからです。
③フェライトビーズを入れる
MOSFETおよび整流ダイオードなどのスイッチング素子のリードに挿入することで対応が可能です。ノイズ除去が必要な周波数に対応したフェライトビーズを選定します。
その他、スイッチングノイズ対策に関するポイントが気になった方は下記リンクよりご覧ください。
カスタム電源 開発・設計実績
画像診断装置用直流電源装置
画像診断装置用直流電源装置の事例です。出力電圧が+3kVと高電圧でありますが、ご指定の筐体サイズが小さいこともあり、高圧発生部を絶縁材で充填することにより小型化を実現しています。
鉄道車載用超広範囲DC入力電源装置
超ワイド入力に対応したDC/DCコンバータ(VME 3Uサイズ用モジュール)の製作事例です。 お客様のご要望でDC24V/48V/72V/110Vを複数の機種でまかないたいが、コストの問題や購入管理の煩雑さがあるため、1機種にしたいとのご相談がありました。 海外製では入力電圧範囲ごとにスイッチやジャンパーピンによりで制御回路の切替が必要でした。
制御機器用ACワイドレンジ/DC入力電源装置
シーケンサ(PLC)用途のAC/DC電源の製作事例です。 国内向け及び海外向けと2機種製造していた電源装置を、1機種に集約し設計開発を行いました。 各種海外規格や従来品にはない入力高調波対策回路を盛り込無ことにより、国内海外の両方に対応しました。
監視制御装置用DC入力電源装置
海外向け監視制御用電源(VME 6Uサイズ用モジュール)の製作事例です。海外用として設計・開発しました。お客様よりご指定いただいたDC/DCコンバータを内蔵し、コントロール回路を付加することによりシンプルな構成とすることで、低コスト化を実現しました。
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