カスタム電源開発・設計 豆知識
2025.09.25
高速スイッチング化に伴う カスタム電源のノイズ対策

電源設計に携わる方ならご存じかと思いますが、電源のスイッチング周波数を高めることで、トランスやコンデンサなどの受動部品を小型化でき、装置全体の省スペース化や軽量化が可能になります。さらに、リップル低減や応答速度の向上といったメリットにより、より高性能な電源が実現できます。
上述のメリットがある一方で、高速スイッチング化することでノイズが発生し、誤動作のリスクが高まるといったデメリットもあります。特に、高速スイッチング化した場合は、低速では問題にならないようなことがノイズの発生の原因となるため、他の電源以上にノイズ対策が難しくなります。
そこで本記事では、高速スイッチング化に伴いどんなノイズが発生して、どのように対策をすればよいのかについて具体的に解説します。
高速スイッチング化によって発生するノイズ
電源回路では、スイッチング素子が高速でオン・オフを繰り返すことで、高周波の電圧・電流が急激に変化します。この急激な変化、すなわち電圧変化率(dv/dt)と電流変化率(di/dt)が増大することが、ノイズ発生の主な原因となります。そしてこのノイズは、大きく分けて2種類あります。
・伝導ノイズ:電源ラインや信号ラインを介して伝わるノイズです。電源線を経由して他の機器に影響を与えたり、機器自体の誤動作を引き起こす可能性があります。
・放射ノイズ:電源回路から電磁波として空間に放射されるノイズです。近くにある他の電子機器に影響を与え、誤作動を引き起こす可能性があります。
これらのノイズは、高周波数帯域まで広がることで、浮遊容量や浮遊インダクタンスといった普段は問題にならない微小な電気的性質がノイズの通り道になってしまいます。そのため、その他の電源と比較して、ノイズ対策がより難しくなります。
高速スイッチング化する際のノイズ対策
高速スイッチング化された電源回路で安定した性能を確保するためには、設計段階からノイズ対策を施す必要があります。下記に具体的な対策を解説します。まず、以下の3つは高速スイッチング化した電源にも有効な一般的なノイズ対策例です。
対策①:電源回路にノイズを抑制するフィルタ回路を設置する
電源回路には、ノイズを抑制するための下記フィルタ回路を設置します。
・EMIフィルタ
伝導ノイズを抑制するために、電源の入力側に設置します。コモンモードチョークコイルとコンデンサを組み合わせることで、ノイズをアースに逃がしたり、インピーダンスを高くしてノイズを減衰させます。
・入力フィルタ
高周波ノイズを取り除くために、コンデンサやインダクタを組み合わせて使います。
図.1 フィルタ回路実装状態例
対策②:基板レイアウトと部品配置によって、ノイズを抑制する
基板レイアウトや部品配置を工夫することによって、ノイズの発生を抑制することができます。
例えば、ノイズの伝播を防ぐベタGNDに関しては、「面積をできるだけ広く取る」「ノイズ源をGND近くに配置する」「電源・信号パターンはできるだけ短く、かつループを最小限に抑えるように配線する」といった対策ができます。また、その他の部品配置に関して、ノイズ源となるスイッチング素子やトランスは、ノイズに弱い信号系回路から離して配置するといった対策をすることも有効です。
対策③:シールドを設置し、放射ノイズを抑える
シールドにより磁界を遮断することで放射ノイズを抑えることができます。なおシールドはトランス・スイッチング素子の周辺に入れるのが一般的です。
図3. シールド設置例
ここまでは、一般的なノイズ対策例をご紹介いたしましたが、
以下でご紹介する対策は、特に高速スイッチング化する際に押さえておきたい対策例です。
対策④:高周波に適した部品選定を行う
・コンデンサ
高周波域でのノイズ抑制には、ESR(等価直列抵抗)やESL(等価直列インダクタンス)が低いコンデンサを選ぶことが必須です。ESLは周波数が高くなるほどインピーダンスが増加するため、この値が小さい多層セラミックコンデンサなどが適しています。さらに、複数のコンデンサを並列に接続することで、ESRやESLをさらに低減できます。
・スイッチングデバイス
MOSFETなどの高速スイッチングデバイスは、オン・オフ時の急峻な立ち上がり・立ち下がりがノイズ源になります。ゲート抵抗の調整などを行い、スイッチング速度とノイズ発生のバランスを考慮した設計が必要です。
・磁性部品
トランスやチョークコイルは、高周波でもコア損失(ヒステリシス損失、渦電流損失)が少ないフェライトコアなどの材料を選定します。
対策⑤:スナバ回路の活用
図.2 スナバ回路
スナバ回路は、スイッチング素子をオフにした際に発生する高電圧スパイクを抑制する回路です。これにより、スイッチング素子が故障することを防ぎ、また電圧変化によるノイズ発生も低減できます。
対策⑥:ドロッパー電源を採用し、ノイズを抑える
高速スイッチング化した電源のノイズ対策の一つとして、ドロッパー電源の採用があります。ドロッパー電源は、スイッチング電源と比較すると効率が低下しますが、ローノイズであり、高周波回路を使用する上ではノイズ対策として効果的です。
但しこの対策については、ノイズ対策と効率のバランスを鑑みた上で、検討を行うことが必要です。
>>ドロッパー電源によって、ノイズ対策を行った提案事例はこちら
高速スイッチング化におけるノイズ対策と効率の関係
ノイズ対策をすることは、電源回路の安定稼働に不可欠ですが、同時に下記のような効率の低下につながる可能性があることを理解しておく必要があります。
そもそも高速スイッチング化をした場合には、スイッチング素子のオン/オフ時に発生するスイッチング損失が増加します。この損失は周波数に比例するため、高速スイッチング化が進むほど効率低下の原因となります。また、上述のノイズ対策として追加するフィルタも、わずかながら抵抗を持っているため、電力損失を発生させます。
結論として、高速スイッチング化をする場合には、ノイズ対策と効率の維持の2つを同時に取り組む必要があります。最適な設計とは、これらのバランスを考慮し、用途に応じた最適な周波数、部品、レイアウトを選択することです。
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今回は「高速スイッチング化に伴うカスタム電源のノイズ対策」をご紹介いたしました。当社では、安全性・信頼性を担保した高周波電源の開発・設計など、お客様のご要望に沿ったカスタム電源の開発を得意としております。実際にこれまで、電力・水道・鉄道などのインフラ設備から建設機器・理化学機器をはじめとした産業機器まで、幅広く業界向けに、カスタム電源を開発した実績がございます。今回ご紹介したように、高速スイッチング化を実現するための設計提案から行うことも可能です。高周波電源など、カスタム電源の開発・設計委託先をお探しの皆様、是非当社にお任せください。
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