カスタム電源開発・設計 豆知識
2025.05.19
フライバックトランス回路: 高圧電源開発・設計の基礎

高圧電源とは数kV以上の高電圧を発生させる電源を指します。一般的な産業機器は、基本的に出力電圧が24Vや48Vといった低電圧で動作しますが、用途によっては、100V、200Vなどといった高電圧を求められることもあります。しかし、質量分析、X線検査装置、科学実験等をはじめとする特殊な用途では、数kVなどの高電圧が必要となる場合があります。このようなケースで必要とされるのが前述の高圧電源です。
そんな高圧電源に用いられる代表的な回路としては、下記記事にてご紹介しましたコッククロフトウォルトン回路が挙げられます。しかし、高圧電源ではコッククロフトウォルトン回路のみならず、フライバックトランス回路も用いられることがあります。そこで当記事では、高圧電源に使用されるフライバックトランス回路について、ご紹介します。
フライバックトランス回路とは?
フライバックトランス回路とは、スイッチング電源に使用される昇圧トランスです。一般的に低圧電源で使用されますが、高圧電源でも使用され、約20~30kVの出力を発生させることが可能です。
フライバックトランス回路を高圧電源として使用するメリットは、他の高圧電源方式と比較して、部品点数が少なく、安価に製作できるためです。また、上述のように低圧電源から高圧電源にも対応できることから、民生用・産業用の電子機器や通信機器など様々な用途で使用されています。
フライバックトランス回路の原理
フライバックトランス回路は、図1のように、主にトランス、トランジスタ、ダイオード、コンデンサから構成されています。動作原理は、スイッチング素子(例えば、MOSFET)がオンの間に1次側コイルにエネルギーを蓄え、スイッチがオフになるとそのエネルギーが2次側に放出される仕組みです。
トランスは1次側コイルの巻き線数に対して2次側コイルの巻き線数を増やすことで、高電圧を発生させます。そのため、1次側の電流をオン・オフすることによって、2次側コイルにエネルギーを放出し、その巻き線数に比例した高電圧を発生させることが可能です。このとき、オンとオフの繰り返し周期に対するオンの時間の割合(デューティー比)を制御することで、入力電圧や出力電流によらず出力電圧を一定に保つことができます。
図1. フライバックトランス回路
フライバックトランス回路が実は高圧電源であまり採用されない理由
上述の通り、フライバックトランス回路は高圧電源に使用されることもありますが、一般的に低圧電源に使用されることが多いです。その理由としては、主に2つ挙げられます。
1つ目が損失の大きさです。フライバックトランス回路は、スイッチング損失や漏れインダクタンスによる損失など様々な損失が発生し、効率が低下する恐れがあります。他の高圧電源に用いられる回路方式、例えばコッククロフトウォルトン回路は、スイッチング素子をしないため、スイッチング損失が発生せず、フライバックトランス回路よりも高効率となります。
2つ目がサイズが大きくなる点です。フライバックトランス回路で高電圧を出力するにはトランスのコイル巻き数が重要ですが、高電圧を出力する場合に巻き数が増え、トランスのサイズが大きくなることがあります。そのため、特に小型化が求められる場合には不向きです。
上記の点からフライバックトランス回路は高圧電源で採用されることは少ないですが、冒頭でご紹介しましたように、メリットもございますので、要求仕様に応じて、適切な回路選択を行うことが重要です。
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