カスタム電源開発・設計 豆知識
2025.03.24
アンダーシュートを抑制するためのポイント:カスタム電源開発・設計の基礎
産業用機器向けの電源は信頼性が求められるため、アンダーシュートが発生すると致命的な問題を引き起こす可能性があります。
そのため、回路設計の初期段階からアンダーシュートの対策を検討することが、製品の安定動作、そして信頼性確保のために必要不可欠です。
当記事では、スイッチング電源におけるアンダーシュートの発生要因から、回路設計者がすぐに実践できる抑制方法を、具体的な対策例を交えながらご紹介します。
アンダーシュートの主な発生要因とオーバーシュートとの要因の違い
アンダーシュートは、オーバーシュートと同様に、電源の出力電圧が目標値から逸脱する現象で、この現象が発生する要因には違いがあります。
①負荷の変化
回路にかかる負荷が急に変化すると、スイッチング電源は出力電圧を安定させようとします。アンダーシュートは応答の過程で、負荷の急激な増加に対して応答できないと引き起こされます。一方、オーバーシュートも回路にかかる負荷が急に変化すると発生しますが、負荷の急激な減少で発生します。
こうした負荷の変化は、回路に使用される整流ダイオードの逆回復時間(TRR)にも関係しますので、その対策が必要です。
② 制御応答性
フィードバック制御に対する応答が遅いと、電圧の修正が遅れ、出力電圧が一時的に目標値を大きく下回り、アンダーシュートが発生しやすくなります。
一方、フィードバック制御に対して過剰に反応することで、電圧の目標値を一時的に上回り、オーバーシュートが発生します。
③入力電圧の変化
スイッチング電源のアンダーシュートは、主に負荷側の要因によって引き起こされることが多いですが、入力側の要因も影響を与える可能性があります。例えば、入力インピーダンスが高い場合、スイッチング電源が入力電流を急激に変化させた際に、入力電圧の変動が大きくなります。それが出力電圧に影響を与え、アンダーシュートの発生要因となる可能性があります。
アンダーシュートの抑制方法
①印加電圧に注意して、ショットキーバリアダイオードを使用する
アンダーシュートは出力整流ダイオードの特性に起因します。出力整流ダイオードの逆回復時間(TRR)が長いと、オン状態からオフ状態への遷移に時間がかかるため、この時に逆方向に多くの電流が流れます。これにより、回路への負荷が急激に変化し、アンダーシュートが引き起こされます。
そこで、対策として、ショットキーバリアダイオード(SBD)を使用します。ショットキーバリアダイオードは、金属と半導体との接合によって生じるショットキー障壁を利用したダイオードで、一般的なPN接合ダイオードよりも順方向電圧(VF)が低く、逆回復時間が理想上、存在しないという特徴があり、アンダーシュート対策に効果的です。
特に高速スイッチングを行う回路では、上記のように、逆回復時間の短いダイオードの選択が重要となります。
但し、ショットキーバリアダイオードは通常の整流ダイオードよりも耐圧(逆方向の印加電圧)が低く、高電圧が印加される回路には不向きなため、注意が必要です。一次側には整流ダイオードが設置されるため、ショットキーバリアダイオードは2次側に設置されることが多いです。
図1 スイッチング電源の回路図
②ドライブ回路の抵抗値最適化を図る
アンダーシュートの抑制には、ドライブ回路のゲート抵抗値を最適化し、立ち上がり・立ち下がり時間を調整することが必要です。
ゲート抵抗は、スイッチング素子(MOSFETなど)のゲート駆動回路に使用される抵抗で、その値を適切に調整することで、スイッチング速度を制御することができます。
抵抗値を小さくするとスイッチング速度が速くなり、効率は向上しますが、電流の急峻な変化によりアンダーシュートが発生しやすくなります。逆に抵抗値を大きくするとスイッチング速度は遅くなり、アンダーシュートは抑制できますが、スイッチング損失が増加し、効率が低下します。
そのため、アンダーシュートと効率のバランスを考慮した上で、回路設計をすることが必要です。
図2 ドライブ回路のゲート抵抗
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